日々の出来事、言葉との出会いを綴っていきます。何年後かの自分のために。

by usagi-kani

「東京タワー」を読んで

 
もう1年以上も売れ続けているのだから、よい本なんだろうな、と関心はあった。
だが、所詮芸能人が書いた本、との認識もあって読もうとはしなかった。
その、リリー・フランキー著「東京タワー」をようやく読んだ。

ひと言で言ってしまえば、お母さん大好き、という内容の「マザコン小説」である。
マザコン男性が多いと言われる日本だから(どこの国との比較だ?)、昔から同様の小説はいくつとなく書かれている。
この本で特徴的なのは、マザコンをいっさい隠そうとせず、素直に表現している点だろう。
マザコンは恥ずかしいという風潮もあって、普通はあまり公にしないものだが、ここまで開けっぴろげな母親賛美だとかえって潔くて好感が持てる。
それがこの本が支持される一因ではないか。

というわけで、ストーリーについては敢えて述べるようなことはない。
述べたいのは表現面について。
私が感じたのは「この作者は詩人だな」というもの。
印象的な表現が、宝石のようにキラキラした表現が随所にちりばめられている。

例をひとつ引用する。

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「たわむれに母を背負いてそのあまり軽さに泣きて三歩あゆまず」
石川啄木が目を潤ませて立ち止まったように、誰しもがかつて大きかったはずの母親の存在を、小さく感じてしまう瞬間がくる。
大きくて、柔らかくて、あたたかだったものが、ちっちゃく、かさついて、ひんやり映る時がくる。
それは、母親が老いたからでも、子供が成長したからでもない。きっとそれは、子供のために愛情を吐き出し続けて、風船のようにしぼんでしまった女の人の姿なのだ。

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うまいなぁ、と思わずため息が出た部分。
「かさついて、ひんやり」なんて自分には絶対できない表現だ。「ちっちゃく」だけで終わってしまうだろう。
「子供のために愛情を吐き出し続けて、風船のようにしぼんでしまった」というのも、母親が小さくなったことに対する子供の気持ちを見事に言い当てている。
素晴らしい。

また、作者のものではないが、最後近くに出てくる詩も気に入ったので記録しておく。

母親というのは無欲なものです
我が子がどんなに偉くなるよりも
どんなにお金持ちになるよりも
毎日元気でいてくれる事を
心の底から願います
どんなに高価な贈り物より
我が子の優しいひとことで
十分過ぎるほど倖せになれる
母親というものは
実に本当に無欲なものです
だから母親を泣かすのは
この世で一番いけないことなのです
(葉祥明「母親というものは」)

母親と死別する日は必ず来る……当たり前のことだけど、それを教えてくれる本である。
できる限り親孝行しよう……そう思わせる本である。
by usagi-kani | 2006-11-01 04:42 | 本・ことば