日々の出来事、言葉との出会いを綴っていきます。何年後かの自分のために。

by usagi-kani

図書館報の巻頭言

 本図書館報は毎年テーマを決めて原稿を依頼・掲載している。今年度のテーマを「絆」と決めたのは初夏の頃である。震災後様々な場面で話題となっていた「絆」。「今年らしい」「今年ならではの」テーマとしてこれ以上のものはないだろう、との考えからだった。
 半年後の12月、清水寺で発表された「今年の漢字」が同じく「絆」であったのを知ったとき、嬉しさが胸の奥に湧き上がった。それは、同じように感じ、考えている人がたくさんいるということを改めて実感したからである。
 顔も名前も知らない「誰か」。だが、同じことを感じている……同じ日本人として、あるいは同じ人間として、奥底のところでつながっている、そんなことを感じたのだろう。
 それもひとつの「絆」だ。
 絆とは、具体的にさしのべられた手や直接かけられた言葉だけではない。表面にはまったく現れないが、根本のところで同じ何かを共有している……そんな、すべての人間を(もしかするとすべての生物を)つなぐ絆もある。
 また、同時代を生きる者たちのつながりである、言わば「横の絆」もあれば、親から子へと綿綿とつながる「縦の絆」もある。
 そう考えると、我々は絆の中で生きていることに、あるいは絆によって生かされていることに思い至らずにはいられない。
 自分と同じ人間は一人としていない。顔などの外見はもちろん能力や嗜好、感受性などもそれぞれ違っている。その意味で人間は孤独である。でも、自分を取り巻く無数の絆を思うとき、孤独ではあっても決して「ひとり」ではないと気づき、安らぎと勇気を得ることができるのではないか。
 安らぎと勇気……これこそが今の時代に最も必要とされているものであろう。だから、「絆」が「今年の漢字」に選ばれたのも必然であったと思う。
                  *
 子どもはなぜかアンパンマンが好きである。
 2歳の我が娘も大好き。最初に話した言葉が「パンマン」だったし、暇があればアンパンマンのDVDを見たがる。グッズも相当数がアンパンマンだ。
 その関連で私も目にする機会が多いのだが、その中で疑問に思うことがあった。
 それはアンパンマンの歌詞。
   ♪何のために生まれて
    何をして生きるのか
    答えられないなんて
    そんなのはいやだ♪
 幼児向けのアニメなのになぜこんなに哲学的なのだろう……そんな思いが一因となって、普段なら絶対に読まないだろう本を手にすることになった。そして、非常に感銘を受け、出会いを感謝したい1冊となった。
 アンパンマンの作者、やなせたかし著『絶望の隣は希望です!』という本である。
 やなせ氏の仕事観、妻との闘病生活、作品に込めた思いなど、感銘を受けた点は多いのだが、ここでは一点だけ。
 書中、アンパンマンについて、やなせ氏はこう語る。

 ところが、この「顔を食べさせる」シーンが、たちまち大人たちから反発を買い、散々悪評を頂戴することになりました。幼稚園の先生から、すぐ文句が来ました。児童書の専門家からは、「ああいう本は、図書館に置くべきではない」とまでいわれました。
でも正義を行ない、人を助けようと思ったなら、本人も傷つくことを覚悟しないといけないのです。自己犠牲の覚悟がないと、正義というのは行なえないのです。
『アンパンマン』を発表した70年代は、自分さえ助かればいい、自分さえ得をすればいいという時代でしたから、自己犠牲をテーマにした話がウケるはずがないと、僕もそう思いました。でも、「真の正義は、自分を犠牲にしないと成し遂げることはできない」、このメッセージだけは、アンパンマンを介して届けたいと思ったのです。


 自己犠牲なしに正義は行なえない……この言葉が深く胸に染みた。
 「正義」とは、若干異なるかも知れないが、フクシマ50から始まる原発事故収束に向けて現場で戦う人たち、彼らは間違いなく英雄だ。
 だが、彼らをヒーローとして讃えるとき、胸に複雑な感情が渦巻くのを禁じ得ない。
 もし「誰か原発事故収束のために働いてくれる人はいないか」と呼びかけがあったとして、果たして手を上げることが出来るだろうか。自分には出来ない。「家庭があるからまだ死ぬわけにはいかない」などの理由をつけて、誰かに任せてしまうだろう。
 乱暴な言い方をしてしまえば、「自分はまだ死にたくない。だから、代わりに死んでくれ」……彼らを讃える感情の裏側に、そんなやましさや後ろめたさの存在を感じてしまうのだ。彼らだって「死んでいい人間」ではないはずなのだから。
 「自己犠牲のヒーロー」には私はなれないな……そんなことを考えさせられた。ある意味「胸が痛い」本だ。
                  *
 手をつないでの散歩中、娘が歌い出す。
   ♪アンパンマンは君さ
    勇気を出して♪
 娘よ、お父さんはアンパンマンにはなれないよ。でも……
 握る手に少し力を込める。
                  *
 守りたいと思う絆がある。
 自分を支えてくれる絆がある。
 絆の中で人は生きる。
 絆は時に自分を縛るうっとうしいものにもなる。
 それでも、絆があるということは幸せなことだと思う。
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by usagi-kani | 2012-04-03 21:36 | 写真・文章 | Comments(0)