日々の出来事、言葉との出会いを綴っていきます。何年後かの自分のために。

by usagi-kani

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重松清は最も「ハズレ」が少ない作家の一人だと思う。
本をじっくり選んでいる余裕がないときは重松清のを選べばとりあえず間違いはない。

今回もお正月に読む本を借りようと数分で選んだのだが、期待に違わず良い本だった。

1歳になったばかりの息子を亡くした男。その男の前に先妻が連れて行った娘が現れる。娘の母親(すなわち男のかつての妻)が遠からず死を迎えそうだという。
二人は旅に出る。それぞれの抱える「死」を受け入れるために。
そんな話。

印象的だったところを書き抜いておく。

 岡村の家にもらわれなければ、岡村さんにはまったく別の人生があった。
 両親にも、岡村さんではない子どもを引き取っていれば、まったく別の人生があった。
 奥さんにも岡村さんと離婚しなければ別の人生があったはずだし、結婚しなければさらに別の人生があった。
 もしかしたら……というより、きっと、岡村さんや両親が現実に生きてしまった人生は、いくつかある道筋の中でも、それほど幸せなほうではなかったのだろう。

 ひさしぶりに会話が噛み合った。景色が流れているからなのか、運転席と助手席で向き合わずにすむからなのか、言葉がすんなりと出る。明日香と旅をしているときもそうだったな、と思い出した。
「後悔が残るようなことをしちゃだめだよ、絶対に」
 洋子はきっぱりと言って、エアコンの吹き出し口の角度を調整しながら、「だから」とつづけた。「わたしは、明日、帰るから」
 話すときには相手の目を見て、筋道を立てて自分の考えを伝えなさい……。
 学校で教わったことは嘘だった。
 私はエアコンの風量を強めて、わかった、とうなずいた。
 話の筋道を立てなくてもわかり合える相手がいる。筋道を立ててしまうと、逃げ道がふさがれてしまう話がある。そういうことは、ほんとうに学校ではなにひとつ教わってこなかったのだ。

「もう一つ、交通事故で亡くなるのと病気で亡くなるのとでは、大きな違いがあります。交通事故には原因があるんです。自分に原因があるんなら、自分が悪い。そうですよね? でも、そうじゃないときは……誰かが、悪いんです」
 樹里さんは息を大きくつき、顎を震わせながら息をまた吸い込んで、つづけた。
「恨む相手や憎む相手ができてしまう亡くなり方なんですよ、交通事故って」

「誰かを憎んだり、恨んだりするときの顔って、かなしいよ。ふつうの『悲しい』じゃなくて、哀れなほうの『哀しい』。わたしは、自分の両親があんな顔するのって見たくなかったし、もう、これからだって絶対に見たくない」


最終章は特に感動的で何度か涙ぐんでしまった。
間違いなく「いい本」だ。だが、誰かに勧めようとは思わない。
「死」があふれている本だけに、自分の身近な人の死を想像し、考えて込んでしまう(「死」にとらわれてしまう)可能性があるからだ。
「死」は避けて通ることの出来ない問題。だが、だからといってそれにとらわれる必要もない。「死」など忘れて生きられたらそれこそ幸せではないか。
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by usagi-kani | 2011-01-06 20:35 | 本・ことば | Comments(2)