ストーリーはありきたりと言えばありきありだが、この小説の魅力は文章にある。
窪美澄ってこんなに文章上手かったっけ?
また、正子の章がすごくいい。
悪意がなくても、ちょっとしたズレで、人は不幸になってしまうし、人を不幸にしてしまう。わかっていてもどうしようもない……それが人生なんだろうな。
図書館で借りて読んだが、この本は買う!
彼女の作品は『ふがいない僕は空を見た』『よるのふくらみ』に続いて3作目(だと思う)。「性」を中心に据えて人間をよくとらえていると思う。
現在私が一番注目している作家だ。
戦争と東日本大震災。
二つの悲惨な出来事には数十年の時間差がある。
その間に社会は大きく変わった。文化が発展し、特に電化製品が進化した。女性の社会進出も大きく進んだ。その変化が女性や子どもに何をもたらしたかを的確に描き出している、と思った。基本的に私も作者と同じことを考えているので、共感できた。
以前に読んだ2作品も素晴らしかったが、この作品も(村上春樹なんかより)読む価値のある小説だ、と感じた。
世の子育て中の親に、あるいはこれから親になる人に是非読んで欲しいと思う。
印象に残ったところを書き抜いておく。
目標を持ったほうがいい。夢を叶えるために頑張ったほうがいい、と言われると、具体的な目標や夢を持たない自分が、なんだかだめな人間みたいに感じられる。自分が好きなことは、写真を撮ることだけど、それが目標や夢かどうかはよくわからなかった。
自分だけの洗濯機、掃除機。なにか一つを手に入れるたびに、自分が豊かになった気分になった。炊飯器、電子レンジ、電気ポット。温かいものをいつでも子供たちに差し出し、与えることが幸せだった。
少しずつ豊かになって便利になった。
そして、同時に、何かが少しずつ損なわれていったのだ。自分の知らないところで。
明るいものを、温かいものを、自分より後に生まれた人たちに渡していたはずなのに、それは自分が思っているよりも、ずっと冷たくて硬いものだったのかもしれない。真菜に言われたように、私たちは望みすぎたのかもしれない。もっと、もっとたくさん。二つの手のひらに載せられないものを私たちは欲しがったのだ。
自分がよかれと思ったこと、それが相手にどう受け取られるかはわからない。でも、私たちは私たちが手にしたものを子どもたちに、次の世代に手渡していかなければいけない。たとえ「負の遺産」などと言われようと。その連鎖こそが人間が生きるということなのだろう。
ネットで検索したら、作者がこの作品について話をしているインタビュー記事があったのでそれも載せておく。
たとえば2013年に『アニバーサリー』という本を出したのですが、執筆し始める前に3.11の震災がありました。
これは私の個人的な思いなのですが、男の人に対して怒っていたんです。それがすごくダイレクトに本に反映されています。ああいう有事があったとして、男の人の手は借りないよ、という。子どもを生みたくても、言い方は悪いけれど種だけくれれば、世代を越えて女同士は協調して生きていきます、という話だから、たぶんあれを男性が読むと相当キツいんではないかな、と(笑)。書いた後も、「これは書きすぎたな」と思う節はありますね。