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こんな猫ちゃんでした

「猫を飼う」は随分長い文章となってしまった。前回の13が最後で、もう書くつもりはない。
思い出として、もらってきた(そしてもういない)猫の写真をアップして幕引きとする。
こんな猫ちゃんでした_f0052907_22581357.jpg

# by usagi-kani | 2020-06-14 22:49 | 日記 | Trackback | Comments(0)

猫を飼う 13

娘と話をするとき、当然ながら小学校のことを話題にすることが多い。

「今日は学校でどんなことした。」

そんなふうに話しかけることがほとんどだ。だいたいどこの親も同じではないかと思う。

四月に新しい学年に進級し、緊急事態宣言が出て休校になるまでに数日間だが登校した日があった。そんな日に珍しく娘から話してきた。

「今日は休み時間一人でブランコ乗ってた。」

「ふーん、みんなは。」

「みんなは何かやって遊んでた。」

「混ざらなかったのか。」

「うん。面倒くさいから。声もかけてもらえなかったし。」

「昨日は。」

「昨日は眠ったふりして教室にいた。」

視線を父親に向けずに、他人の振る舞いを報告でもするかのように話す。

確か、グループ内の他の二人の結びつきが強くなって、疎外感を感じているようなことを以前話してくれたことがあった。その後も新たな人間関係を構築出来てはいないのだろう。

珍しく自分から話しかけてきたのは、解決を求めてか、共感を求めてか。わからない。とりあえず親らしいことでも言おうとする。

「一緒に遊ばないと、ますます友達じゃなくなっちゃうぞ。」

「いいよ。もうぼっちでいる。」

ぼっちとは「ひとりぼっち」のこと。

「それじゃ学校つまらないだろう。」

「うん、行きたくない。コロナで休校にならないかな。」

「家に一人でいたってつまらないだろう。」

「学校に行くよりはいい。……ねえ、どうして友達っていないとダメなの。」

「いないとダメってことはないよ。お父さんだって友達いないし。……大事なのは自分の支えになるものがあることだよ。このために生きているって思えたり、辛いときの支えになったりするものがあれば、別に友達はいなくてもいい。人間は変わっちゃったり、裏切ったりするしね。」

「でも、いた方がいいんでしょう。」

「うん、友達がいれば、相談に乗ってくれたり、助けてくれたりするからね。でも、絶対じゃない。打ち込んだり、信じることの出来るものがあればそれでいい。そういうのを見つけなよ。」

「う~ん、ゲームかな。それでもいい。」

「ゲームはダメかも。」

「どうして。」

「だってお前、ゲームばっかりで、勉強も読書もしなくなってるだろう。」

「結局それか。」

「そう。ゲームやってる時間で、お父さんの似顔絵でも描いてくれよ。」

「やだ、時間があっても絶対に描かない。」

そんなふうになんとなく冗談ぽく会話を終えることが出来た。もっと真剣に話し合うべきことなのかも知れないが、それは逃げ場を奪うことにもなりかねない。これくらいでよかったのだと思いたい。

学校も楽しくない。休校になっても一人で留守番。

今振り返れば、この二週間ほど後の「猫を飼おう。」との提案に娘があんなに嬉しそうな顔をしたのも納得がいく。それとともに、娘の孤独にきちんと向き合おうとしなかった私の、父親としての無能さも。

それでも猫を飼おうと思う。娘に猫をいっぱい撫でさせたい。指に伝わってくる温かさ、それは生命の温かさだ。そして毛の繊細な柔らかさ、それは愛の感触だ。それらを感じて欲しいから。


# by usagi-kani | 2020-06-14 22:46 | 日記 | Trackback | Comments(0)

猫を飼う 12

翌日、子猫を動物病院へ連れて行った。

まず体重を計測する。三〇〇グラムしかない。発育がよければ倍の体重でもおかしくない。ガリガリだとは思ったが、本当に痩せていた。

お医者さんに、食欲がないこと、酷い下痢であること、兄弟猫が死んでしまったことなどを話す。

診察の結果、単なる栄養失調ではなくウイルス感染症で、おそらく助からないだろう、明朝死んでいても何の不思議もない、と告げられた。


病院から帰ってから、目に見えて子猫の元気がなくなった。ケージの中のベッドに横たわって動こうともしない。あまりに大人しいのでケージから出してやっても、すぐさまベッドに戻り横になる。

もう体力も気力もないのだろう。


「病気の猫を押しつけられたのかな。」

娘が私に尋ねた。動物病院でお医者さんが発した言葉だ。そんな考え方をしたことはなかったので私の胸にある種の痛みを伴って爪痕を残した言葉だったが、娘にとってもそうだったのだろう。

待ち焦がれてやっとやって来た猫。それなのにほとんど触れ合うこともないまま死んでしまう。期待が大きかっただけ、落胆も大きかっただろうことはわかる。だが、人の心を疑うような経験にだけはさせたくない。

「そうじゃないよ。向こうの人は栄養失調と思っているみたいだった。それにこっちがもらいたいって言ってもらってきたんだし。今考えるとあげていいのか迷っている感じだったろう。」

「うん。」

と一応うなずいてくれたが、内心はわからない。

娘よ。落胆と悲しみの中にあっても、他者に憎しみや疑いを向けないで欲しい。常に人間の善意を信じて欲しい。それが出来なかったとしたら、今回猫をもらってきたことは完全な失敗になってしまう。それではお前が可哀想な以上に子猫が可哀想だ。


娘が就寝し、私も寝る時間になった。

ケージの扉を開け、小さい頭を撫でてみる。柔らかい毛の感触が指に優しい。元気な子猫の体温よりは低いのだろうが、それでも優しいぬくもりが感じられる。

あと何時間生きられるのか。死ぬためにもらわれてきたみたいになってしまったね。お母さんのもとで最期を迎えたかったかい。他の兄弟はみんな死んでしまったそうだよ。

子猫の右目が半眼に開いている。左目は猫風邪による結膜炎で開かない。半眼で何かを見ているのか。それとももう見えていないのか。確かなのは、最期に見たいだろうものを私は見せてやれない、ということだ。

おやすみ。

ケージを置いたリビングの明かりを消した。


# by usagi-kani | 2020-06-13 23:49 | 日記 | Trackback | Comments(0)

猫を飼う 11

猫を引き取りに行った帰り、キャリーケースの中には茶色のハチワレの猫がいた。

5匹兄弟のうち、もらう予定の灰色の子猫を含め2匹が前日に亡くなっていた。飼い主さんが言うには「母乳が出なくて栄養失調になってしまったのではないか」ということだが、残りの3匹も文字通り骨と皮だけのガリガリで、弱っているのが見て取れた。

「どうする。」と娘に問いかけたが、答えはわかっていた。あれほど楽しみにしていたのだ、代わりの猫がいるならそれをもらって帰りたいはず。そして、それは他ならぬ私の考えていることでもあった。

そんなわけで3匹の中で一番元気の良さそうな子猫をもらうことにしたのだ。


娘の膝に置いたキャリーケースの中でか細い鳴き声を上げる子猫。

「ごめんね。お母さんと離されて淋しいよね。」

娘が子猫に話しかける。猫に人間の言葉がわかるはずはないが、それでもやはり話かけずにはいられない。言葉は通じなくてもそれに込められた思いは伝わる、人間はそう信じ、動物や時には物にさえ話しかける。

「私もお父さんと離されたら淋しいもん。」

えっ、そんなことを言うなんて、と思った瞬間には、娘の声はまた子猫に向かっている。

「ごめんね。淋しいよね。」

子猫の鳴き声が続く。娘の言うように母猫を呼んでいるのだろうか。

これから我が家で暮らすガリガリの子猫。栄養失調ならきちんと食べさせれば元気になるだろう。

そのときはそう考えていた。

# by usagi-kani | 2020-05-31 22:26 | 日記 | Trackback | Comments(0)

猫を飼う 10

子猫のトイレはふたつ準備した。

一つは和室に置くケージに入れておくもの。もう一つはリビングの隅に設置しておくもの。

現在考えている子猫の生活は次のようなものだ。

夜は和室のケージの中で眠らせる。朝、私が起床したら猫もケージから出し、リビングに連れてくる。猫と人間の朝食の準備が出来たら、娘を起こして3人(2人と1匹)で食べる。娘が学校、私が仕事のために家を出る時間は同じなので、その直前に猫をケージに入れる。夕方娘が帰宅したら子猫をケージから出し、リビングへ連れてきて遊んであげる。当面はおやつとしてミルクを与える。夜7時半くらいに夕食を2人と1匹で一緒に食べる。夜11時くらいに私が寝る(娘は10時前には床についている)ので、そのタイミングで子猫はケージに戻す。

おそらくこのような生活の繰り返しになるだろう。

子猫は昼間8時間程度留守番することになる。ケージに閉じ込められて、誰もいない8時間、きっと心細く淋しいことだろう。

そう考えて初めて気づいた。

これまで娘は、学校から帰ってきてから父親である私が帰宅するまでの間ひとりぼっちで留守番していた。その淋しさを慰めようと子猫を飼うことにした。家に帰れば子猫がいる、そのことで娘の淋しさはだいぶ慰められるだろう。

だが、子猫はどうなのだ。生まれて数週間という幼さで、長時間ひとりぼっちでいなければならない。猫であっても淋しくないわけはない。

結局、淋しさが娘から子猫に移っただけのことなのだ。

誰かの淋しさを埋めるために、別の誰かが淋しい立場になる。人間世界でもありそうなことだ。新たな淋しさを生じさせることなく、淋しさを消失させること無理な相談なのだろうか。世界からすべての淋しさをなくすことは不可能なことなのか。

ともあれ迎える直前になって子猫に対して申し訳ない気持ちが強くなった。


# by usagi-kani | 2020-05-27 22:34 | 日記 | Trackback | Comments(0)