日々の出来事、言葉との出会いを綴っていきます。何年後かの自分のために。

by usagi-kani

島本理生『ナラタージュ』を読んで

女性の書いた文章を読むのが好きだ。女性ってこんなふうに世界を見て感じているのかという発見があるから。
ものの見方だけではない。文章の「流れ」が違う。感受性や想像力が男とは根本から違うのだろう。男と女は全く別の生き物なのだな、と感じる時でもある。

男女の文章の違いって、たぶん想像力の違いなんだろうな、と思う。
例えば、A地点から対岸のB地点へ川を渡るとする。男なら飛ぶための石を5個川中に置くとして、女性は4個ですませてしまうのではないか……そんなふうに感じる。一つ一つの石の間隔が広いから、より遠く飛ばなくてはいけない。つまり、想像力を働かせなくてはならない。想像力が不足したり、使い方を間違えると、目的のB地点にはたどり着けない。男にとって女性の文章を読むのは、そんな不確実さ・不安定さを抱えながら読むことである。細心の注意を要求される疲れる作業でもある。そして、いくら心を砕いても途中で川に落ちてしまうことも多い。女心は難しい。

この『ナラタージュ』もまさに「女性の文章」であった。
登場人物、特に主人公の女子大生と葉山先生に魅力がない……理性的すぎてつまらない、もっと感情的というか「壊れた」感じがほしい……ため、小説としてそう高い評価を与えるつもりはない。
でも、「女性の文章」として、たいへん興味深く読めた。男なら見逃してしまう、指先などの身体のちょっとした動きにも心情を読み取っている。女性の繊細さを感じることのできる文章だった。特に、終わり近くのセックス描写は男には絶対書けないだろうな。

清も濁も、合理も不条理も併せ持つのが人間。であれば、この小説は人間が描けていないことになる。が、小説でくらい夢を見たい……そんな人には、そんな時には、お勧めの一冊である。

最後に、印象的な表現のある箇所を書き抜いておく。

     ***

「君にとっては皮肉なことかも知れないけれど」
 そう前振りをしてから、葉山先生はゆっくりとした口調で
「君をこれほど大事に思うようになってようやく、もう一度、妻を大切にできるんじゃないかと思ったんだ」
 良かったなあ、と思う自分が不思議だった。すでに焼けるように熱いまぶたの奥には涙が溜まっていて悲しくないと言えば嘘になるのに。それでも心の底から良かったと思った。

     ***

「君はいつもそうやって大丈夫じゃないのに大丈夫だって言うんだ」
 次の瞬間、葉山先生がベッドから身を乗り出して私の体を強く抱き寄せた。ほとんど触れたこともないのになぜか懐かしさを覚え、両腕を彼の背中に伸ばして、今、つかまなければすぐに去ってしまうものに必死で強く抱きついた。暖房のきいた病室で少し汗をかいた髪の匂いも痩せた首筋も厚い胸もすべてが狂おしいほど愛しくて頭の中が変になりそうだった。
「僕は君が好きだ」
 絞り出すような声で彼は言った。
「私も好きです。どうしようもないほど、あなたが好きです」
 今さらなにを言っているのだろう。もうずっと、私は胸の中でそう言い続けてきた。

     ***

 それでもカーテンの隙間からかすかに漏れてくる一筋の光はまぶしく、呼んでいるようだった。彼が暖房のスイッチを入れ、ボストンバッグから荷物を出してそれぞれの場所にしまい、洗濯機の中に汚れた物を投げ込んでいる間も、ただ一つの気配が私と彼との間に横たわって微動だにしなかった。私は部屋の真ん中に立ちつくしていた。
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by usagi-kani | 2007-02-23 05:21 | 本・ことば | Comments(2)
Commented by kazemachi-maigo at 2007-02-23 13:48
私は、女性の書く文章苦手なんですよ(自分のも含めて)。
男性の書いたもののほうがしっくりくるし、読みやすく感じます。
それは、自分が男性的なのか、あるいは逆に同性としての女性に嫉妬や反発を感じてしまうのか、理由は不明です。

女性の文章は、(本性がというべきか)やはり感情的ですね。
それまで丁寧に99積み上げられてきた理論が、相反する1の感情で、あっけなくひっくり返されてしまう。
ゆるすときも、憎むときも。
そんな理不尽さが、たぶん自分にもあって、腹が立ったり、納得がいかなかったりするんです。

99積み上げてきた理論のピースに、残りのひとつの理論ピースがぴったりあてはまったときの快感・・・すっきり感がもてるのは、圧倒的に男性の文章のように感じます。
Commented by usagi-kani at 2007-02-23 21:58 x
kazemachiさん、こんにちは。
男性の文章の方が理論的というか、「積み上げていく」感はありますね。理論的である分納得するから、すっきりするのでしょうね。

>それまで丁寧に99積み上げられてきた理論が、相反する1の感情で、あっけなくひっくり返されてしまう。

確かに。でも、このハラハラ感が女性の文章の魅力でもあるわけです。そして、たぶん女性の魅力でもあるのかな?
結局、異性に憧れる、というオチになりそうですね(笑)。