日々の出来事、言葉との出会いを綴っていきます。何年後かの自分のために。

by usagi-kani

「4コマ哲学教室」を読んで

入門書、には必ず不満を覚えてしまう。
入門者が知りたいと思う部分への説明が少なくて、入門者は関心を持たないだろうところ、簡単に言ってしまえば入門者にはどうでもいい部分に限ってかなりの分量を割いて言及してあったりするからだ。
これは、入門書の執筆者が入門者の気持ちを忘れたその道のプロフェッショナルである、ということから生じる問題で、入門者が入門書を書けない以上やむを得ないことなんだろうな、と諦めているが。

今回紹介する『4コマ哲学教室』(文:南部ヤスヒロ、マンガ:相原コージ)は、哲学の入門書という位置づけになると思うが、やはりその傾向を回避できていなかった。

具体的に言うと、ヘーゲルの弁証法にページを割きすぎている。
これは哲学の入門書全般に言えることで(と言ってもそんなに読んでいるわけではないが)、「哲学をやる人って本当にヘーゲルが好きなんだな」と半ばあきれつつ感嘆してしまう。
哲学は「いま現在を生きる人」のものでしょ? だったら、そんな古い理屈じゃなくて、新しいのを、それこそポスト構造主義やポストモダンなどを取り上げるべきだと思うんだけど。
ヘーゲルの偉大さも弁証法の普遍性もわかるんだけど、入門者は「いま現在を生きる人」なんだからさ。

それでも、この本はお薦めである。

なんと言っても、とっつきやすい。
哲学なんていうおカタいものの入門書なのだから、とっつきやすさは非常に重要なファクターだと思う。
高校の倫理の副教材として制作された小冊子が原型だというが、これなら高校生も楽しく学べたんじゃないかな。

そのとっつきやすさの理由は、相原コージ氏の4コママンガに南部ヤスヒロ氏が解説を加えるという構成にある。
相原氏のマンガがシンプルながら深い味わいがあり、それを読んだ後だから、本来やっかいな哲学の解説も頭に入りやすい。
いや、違うな。
もっと積極的に解説を読みたくなるのだ、マンガの意味を理解するために。
「マンガを読みたい」でなく「解説を読みたい」(しかも哲学の!)と思わせるのだから、たいしたものだ。

ただ、とっつきやすさを重視したせいか、「?」と思う箇所も少なくなかった。

例えば、最初のマンガ。

「一体俺は何のために生きているのか?」と悩む浩(主人公の青年)に、後ろからぬっと現われたブタ公が言う。

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このブタ公の答えに、浩は大きな衝撃を受けるのだが……。

このマンガの後の解説に、ブタ公は「事実判断」(イイとか悪いとかとは無関係に、現実をそのまま受け止める)、浩は「価値判断」(意味や価値にこだわる)をしているのだ、とある。
浩の「価値判断」はその通りとして、果たしてブタ公の「俺は食われるために生きている」は「事実判断」と言えるのだろうか?

確かに人間は「食うためにブタを飼育している」。これは事実。
でも、だからといって、ブタが「食われるために生きている」も事実と言えるのだろうか。
もしそうなら、人間がブタを食うことをやめたら、あるいは人間に食われることなくブタが(病気や事故で)死んでしまったら、ブタの存在理由はどうなるのだろう。
まあ、「存在理由」とか言うと「価値判断」になってしまうからそれは置いておくとしても、「食われる」なんて未来のことは不確実なのだから、事実とは言えないはず。だから、ブタ公の言うことを「事実判断」とするのに疑問を感じてしまったわけだ。
ひとくちに「事実」「現実」と言っても、何が「事実」「現実」なのかを決めるのは難しいと思う。

そんなこともあって、浩は「ものがわからず思い悩む存在」、ブタ公は「ある種の悟りを持った存在」として描かれているが、実はブタ公こそ「何もわかっていない存在」なんじゃないの?と思ってしまったりする。

……と書いてきて気づいた。
もしかしたら作者は、「ものがわかっている」ブタ公も実は「わかっていない」ということを読者に知らせることで、結局、全ての存在が「何もわかっていない」んだってことを言いたかったのかもしれない。
深読みしすぎかな。

なにはともあれ、自信を持って推薦できる1冊である。
絶対に哲学に興味を持てる。
現に、私自身、哲学の本を読み始めたのだから。
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by usagi-kani | 2006-11-04 06:19 | 本・ことば | Comments(4)
Commented by honn623 at 2006-11-07 07:51
う~~ん、深い読みです。哲学書に答えを求めてはいけないのですね。
答えは闇の中。
逝く日までわからない。
相原コージにひかれます。
読んでみようかな。
Commented by usagi-kani at 2006-11-08 06:06
honn623さん、こんにちは。
哲学の入門書としてはお薦めの1冊ですが、関心がなければ特に読まなくても…って感じですかね。
相原コージは私も大好きです。「コージ苑」は何回となく読み返しました!
Commented by seilonbenkei at 2006-11-16 22:43
はじめまして。えと、どちらでお見かけしたか忘れてしまった(そんなトシなんです)のですが、お気に入りに入れさせいただいています。
「事実などというものはない。ただ解釈だけがある」と言ったのはニーチェでしたかね。
UPされてるコマのセリフだけ見れば、ブタのしているのは事実判断ではなくニーチェ的な解釈であると言った方がしっくりくる気がします。でも「俺は何のために生きているのか?」の答えとしての「食われるために」なら、根本動因的な意味合いを持たせたのでしょうか。で、「食われるために」と自覚しているなら、それは意志の自覚なのかなと思ったりします。
読んだことはありませんが、このマンガって小泉吉宏のシッタカブッダシリーズにちょっと似てます?
ちなみに、相原コージもおもしろいですが、私は中崎タツヤが好きです(笑)
お気に入りから飛ぶのが面倒なので、拙ブログでリンクさせていただきたく思います。ご了承ください。
Commented by usagi-kani at 2006-11-17 06:11
seilonbenkeiさん、コメントありがとうございます。
そちらのブログはお気に入りには入っていたのですが、早速私もリンクさせていただきます。
それにしても…哲学に詳しいんですね。
あまり知らないのに偉そうに書いてしまって恥ずかしいです。
これからもよろしくお願いします。