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田口ランディ『キュア』を読んで

現代日本人の二人に一人がかかると言われる癌。
その病と我々はどう向き合っていくべきなのか…。

本書の存在は、ずっと以前から知っていた。患者のその後の人生など考慮せず、ただ延命だけを考える、現代医療の問題を描いた作品として。
だが、読んだことはなかった。自分ではあまり本は買わないので、図書館にないと読みたいと思っても諦めてしまうのだ。
今回も学校の図書館にないため読まずに終わるのかと思っていたが、町の図書館に行ったら置いてあった。それも探したわけでもないのにすぐに目に入ってきた。まるで私が来るのを待っていたかのように。
それで借りて読んでみた。

癌をいろんな視点から見て書いている。よくぞこれほど、と思うくらい。よほど研究・調査したのだろうということがわかる。

癌も(新生物なんて呼び方もあるようだが)ひとつの生命であり、生命にいいも悪いもない。生まれてしまった生命は生きようとするものである。癌と人間の関係は、人間と地球の関係のようなもの。人間も生きようとして母体である地球を苦しめ、滅ぼすかも知れない。だが、それにいいも悪いもないのだ。
そんな内容が印象に残っている。

現代において誰がなっても不思議のない「癌」を考えることは、とりもなおさず「生」を考えることなのだな、と思った。……思ったが、その先は今の私にはわからない。「癌」から考える「生」とは……。癌にならない生き方? 癌を受け入れて生きること? 癌にならない環境や社会をつくること?
わからないが、考えるきっかけをもらっただけでも読んだ価値はあった。

これは誰もが読む価値のある本だと思う。

さて、いま私の(そして多くの日本人の)最大の関心事は福島原発からの放射線だろうが、この本の終わり近くにまさに原発事故の話が出てくる(この本が出版されたのは数年前なので今回の福島原発とは無関係なのだが、このタイミングで読んだせいか予知的なものを感じた)。
記録しておく価値のある文章だと思うので(今その判断は出来ないが、後に読みたくなるかも知れないので)、以下に引用しておく。

たて続けに起こった、原発事故による日本近海の放射能汚染が、人々のガンへの不安をよけいに駆り立てていました。魚がちっとも売れなくて、たくさん捨てられている映像が何度もテレビに映りました。「汚染」という言葉を聞くたびに私はとても怖くなるのです。まるで海に悪い病原体でもいるように脅えているけれど、いったい汚染ってどういうことなんだろうってわからなくなるのです。海が汚染された、魚が汚染されたというけれど、そこから逃れようとしてもがくことは、なにか間違っているような気がしました。もう逃れようもない、これは私たちの出来事なのだから、私たちの選んだ生活の結果であることを受け止めるしかないのではないかしら。人間には変えられることと、変えられないことがある。受け入れることも生きるための智恵にちがいない。たくさんの病んだ人たちと会ってきて、しだいにそう思うようになったのです。

by usagi-kani | 2011-08-25 21:14 | 本・ことば | Trackback | Comments(0)